何もしなければ、何も起こらない

 私の“やわら”研究は景色を象る探求だ。そして一人一人に“象り”
を手渡しします。 Why?
“やわら”の象りは親兄弟、姉妹、友を守り、更に健康を守る道、そし
て “やわら”の“象り”こそ、「力」と「形」とだけにたよる人間の良く
ない状態にはまりこむかもしれぬ観念主義、かと思えば、人間(小宇
宙)を機械で指導する、天をも冒涜する、それを修正する、有力な新
しいスポーツであると思える。
 ですから近代の武術を観察すると、先人から果てしなく続いた歴史
を持つ武道とは「何だろう」と頭に浮かぶものが柔道、柔術、合気道
等すなわち“剛”よりも“柔”の方が強い、と言う考え方だ。これは大昔
にすでに発見されていた(和等、俰、現代では、柔)普遍的に真理を
あらわしている言葉だ。
 私は18歳の半ばから武芸を始めておおよそ35年(53歳)にい
たるまで逆手、むしろ“剛”(拳法)の追究であり“殺法”を究めること
が目標だった。そして七十二門拳の要穴を主にして、十二時気血行跡
の要所まで究める事が出来た。しかし、そのような“殺法”が今の時代
に必要なのか、と考えさせられた。しかし、過去を変えることはでき
ないが、未来はある、だから私はこれまで自分が求め、精進した拳法
柔術を30年前にきっぱりと捨て、“やわら”に活路を求めた。
“やわら”は先人から果てしなく続いた考え方だった。それがあるから
柔術や柔道がある。
 だから現代にも残る柔術や柔道、あるいは合気道に「やわら」があ
るものと思っていたのだが、そこに私の求める“やわら”はなかった。
柔らかさを求めてはいても、それでも最後には(力)に頼っているそ
んな風に感じてしまったのだ。だから“やわら”は自分で見つけるしか
なかった。 これが私のミッションだ! と 心に叫んだ。
「柔よく剛を制す」中国の兵法書『三略』にある、今や一般の人の心
得としても通用している。それほど普遍的な理であることに感心させ
られる。この言葉は一般に『三略』を出典としているように認識され
ているがその元になっているのが『老子』だ。
 私にとって大きな“発見”に至れたきっかけはこちらの方だ。
……およそなにが柔らかいか、弱いといっても、水ほど柔らかく弱い
ものはない、そのくせ、堅く強いものにうち勝つこと、水に勝るもの
はない……これは「水が弱さに徹底しているからだ」私の最初の発見
は水のように「象ればいいのだ」と言うことだ。だから「形には進化
がない」のだと思えた。けれども「象りには進化がある」と言うこと
だった。つまり、自ら形を為そうとするのではなく“象る”のだと言っ
ても(力)で象っては駄目だ。水の流れを“象る”ように舞う、それが
私の発見した“やわら”だった。
その“象る”エネルギーは“玄”であるが(力)の相対であるのではない
かとも感じた、しかし(力)の在り方は、強いか、弱いかだけの事で
相対になるものではない、まったく、聞いたことも、見たこともない
 本書では、私が感じた“玄”の理法を物理的に証明する事はできない
が、この書籍で“玄”のエネルギーを“象り”で表現することでご紹介し
たいと思う。
まず“やわら”に於いては手解きがない、それはなぜかと言うと、手は
取られた時点で手は取れている、だから、解脱する必要がない。
多くの方がこの言葉から想像する柔術、柔道とは、かなり違って見え
るものだろう。しかし、それは“象り”において見出された、ある意味
で絶対の勝ち得る唯一の方法そのものと、私は確信している。
 つまり、“象り”は体格、筋力、攻撃力をいくら高めても存在した“限
界”を超えさせてくれるものだ。即ち弱は強に勝ち、柔は剛を制する。
 老子は「この道理はだれでも知っているが、実行できるものは誰も
いない」とも説いている。その難しさは、私自身がその発見に、とて
つもなく時間がかかった事で身をもって感じているから、“象り”の簡
素化につとめる。しかし、注意しなければならないのは「技術的に難
しいから実行できない」訳ではないという事だ、それは“人間性”にも
大きく関わる要素だと思う。
 私たちは“考え方を改めなければならない”のではないだろうか?
 そんな時もあるのだ。そうして“やわら”を求める限り、その追究を
迫られる課題であろう。
もう体力や腕力で武道を行う時代は終わったのだ。
だから“やわら”とは、何を捨てて、何を大切にするのか?
本書を読むことをそんな風に考えるきっかけにしてもらい、さらに各
流派の技法に取り入れていただければ、この上ない本望だ。
 金メダルがないがメダル以上のものを得る、それは、"何もしなけれ
ば何も起こらない"この不争の精神、それが“やわら”なのだ。
さらに形のない大海に流れ行く水のような穏やかさ、そこにはとてつ
もない“宝”が秘められている。
  その宝は”無象之象”その無象の景色を破壊することも、奪うことも
できない。そして”象り”は人を守る景色。
だから、”象り”は私たちの永遠の宝だ。

      目 録 全

   第一Chapter“やわら”とは

01・剛強柔弱
02・術と形と(象り)
03・(象り)の理法
04・直接的に関節を攻めない
05・“象り”を行う機会  
06・(力)の徹底的排除
  ・パワーを入れ無い遊び
07・達磨崩      Darukakuzusi
08・達磨崩      Darukakuzus(A)
09・達磨崩      Darukakuzus(B)
10・達磨崩      Darukakuzus(C)
11・発見した技をなぜ隠す
12・私の体を動かしたもの



     第二Chapter“玄”の存在

01・暗黒物質(玄)
02・物理の法則
03・気とは?宇宙
04・(力)でないものが象りになった
05・検証 童 駆  Warabegake
06・(玄)と言うエネルギー 
07・(玄)と(やわら)の概念方程式

   第三Chapter“反作用”

01・常に発生している見えざる(力)
02・身体の構造的“反作用”  
03・反作用を活用できる身体
04・身体の使い方 
05・小胸筋 
06・呼吸で緊張を緩める 
07・手でなく肘関節を使う!
08・千 尋           Tihiro
09・千 尋(外廻し)      Tihiro
10・千 尋(内廻し)      Tihiro            
11・五五の拾で和をする
12・滝 落         Takiotosi
13・手 解         Tehodoki(A)
14・手 解         Tehodoki(B)

   第四Chapter “波心”

01・(力)でなく(共振)
02・二羽桁(崩し)
03・二羽桁A   
04・二羽桁B 
05・二羽桁C 
06・二羽桁の展開(投げ)
07・八機手 
08・脊 椎(背骨)

   第五Chapter “点・線・面”

01・接点の変化
02・点・線・面
03・手の変化の在り方
04・接点による変化
05・実際の勢法における使い分け
06・検証(投 網)Toami
07・やわらの秘穴 
08・上肢前部  
09・上肢背部   
10・下肢内側部(一図) 
11・下肢前部 (二図)
12・下肢外側部(三図) 

   第六Chapter “柔六法”

01・(玄)の作用
02・霞     Kasumi
03・枝垂桜   Sidaresakura
04・千 尋   Tihiro
05・上 善   Jyouzenn
06・山 彦   Yamabiko
07・波 心   Hasinn
08・石 火   Setuka
09・犬 笛   Inubue
10・金 縛   Kanasibari
11・竹 符   Takefu
12・無 為   Mui
13・”やわら”の心得 

   第七Chapter “歩六法”

01・歩法の大事  
02・二之歩  
03・二之歩の良い“プロセス”  
04・二之歩の悪い“プロセス” 
05・二之歩巡    
06・二之歩巡(大 返) Oogaesi
07・二之歩進   
08・二之歩進(腕 返) Kainagaesi
09・二之歩開   
10・二之歩開(竹生捻) Tikubuhineri
11・内六歩  
12・内六歩 (浦 舟) Urafune
13・屏風返        Byoubukaesi

   第八Chapter “象り”

01・水の変化性 
02・“象る”エネルギーは“呼吸”
03・“呼吸”を聞く
04・形と“象り”の違い  
05・八重垣古式(形)
06・八重垣進化(象り)
07・“象り”のイメージ
08・“象り”とスポーツと“舞”
09・手解は“象り”の扉
10・不安と向き合うから進化する
11・“象る”理法
12・紅葉返       Momijigaesi
13・紅葉返 (一人稽古)Momijigaesi
14・“象り”の稽古
15・千 尋 
16・千 尋(揺 篭)  Yurikago
17・千 尋(響 波)  Yuranami

   第九Chapter“象り”のプロセス

  ・“象り”に勝る奥義なし
01・円 月       Enngetu
02・みさご       Misago
03・千 尋(響 波)  Yuranami
04・落 日        Rakujitu
05・紅葉掬       Momijisukui
06・紅葉捻       Momijihineri
07・紅葉投       Momijinage
08・木立伐       Kodatigiri
09・日 輪       Nitirinn

    “象り”のプロセス続きA

10・矢倉投       Yaguranage
11・百日紅       Sarusuberi
12・綾手取(八重垣)  Yaegaki
13・綾手取(面 影)  Omokage
14・本 逆       Honngyaku
15・蛇 蝎       Dakatu
16・帆 走       Hobasiri
17・肘衣取(大 返)  Oogaesi
18・火 影     Akari
19・肘衣取り顔面突く(太極投)Taikyokunage
20・諸手取 (諸手投)    Morotenage
21・両手取 (戦 風)    Soyokaze
22・両手取 (太極投)    Taikyokunage
23・両手取 (両手裏投)   Ryouteuranage
24・両肘衣取(響 投)    Yuranage

   “象り”のプロセス続きB

25・両腕押 (太極投)    Taikyokunage
26・胸襟取 (五月雨)    Samidare
27・胸襟取 (波 心)    Hasinn
18・胸襟取 (胸取返)    Munetorikaesi
29・肩衣取 (肩 極)    Katagime
30・肩衣取 (前肩取)    Maekatatori
31・両胸襟取(関節挫)    Kannsetuhisigi
32・胸襟と肘衣取(太極投)  Taikyokunage
33・後片手取         Usirokatatetori
34・後両手取(鷹之羽)    Takanoha
35・後抱投          Usirokakaenage
36・後首絞(占 捕)     Uranaitori
37・山脈中          Sannmyakudori
38・羽交締          Hagaisime

     “象り”のプロセス続きC

  ・“象り”は変化するも     
39・寄正変 紅葉返(A)    Momijigaesi(A)
40・寄正変 紅葉返(B)    Momijigaesi(B)
41・夕月変          Yuuzukikawari
42・指 宿          Ibusuki
43・脇嵩押 (十文字)    Jyuumonnji
44・肘押極 (揺 篭)    Yurikago
45・肘押極 (入 違)    Iritigai

   第十Chapter 掴まれる直前の“象り”

  ・取りに来た瞬間               
01・片肘衣を取らんとする(谷 落)Taniotosi
02・両肘衣を取らんとする(太極投)Taikyokunage
03・両肘衣を取らんとする(手 楯)Tedate
04・胸襟を取らんとする (八重垣)Yaegaki
05・胸襟を取らんとする (水 簾)Suirenn
06・両腕に触れた瞬間  (矢筈巡)Yahadumeguri
07・両腕に触れた瞬間  (響 投)Yuranage
08・両腕に触れた瞬間  (太極投)Taikyokunage
09・両腕に触れた瞬間  (辰巳投)Tatuminage

   第十一Chapter打撃に対する“象り”

01・突いて来た瞬間   
02・“二之歩”足の進め   
03・二之歩(位 取)  
04・三角投       Misuminage
05・位 取(揺 篭)  Yurikago
06・手 車(揺 篭)  Yurikago
07・笹 舟(揺 篭)  Yurikago
08・九尾突       Kyubituki
09・遡 上       Sojyou
10・枕 落       Makuraotosi
11・飯台返       Tyabudaigaesi
12・大 返(二連に変化)Oogaesi
13・日 暈       Higasa
14・響 波       Yuranami
15・波 動       Hadou
16・地蔵返       Jizougaesi
17・帰 投       Kaerinage
18・八文字       Hatimonnji
19・衣 笠       Kinugsa
20・お頭落       Otumuotosi
21・鹿 威       Kutigitaosi

   第十二Chapter蹴りを“象る” 

  ・“やわら”は万物の理が含まれる
01・足 払を防ぐ~鶴一足 Turunohitoasi
02・前 蹴を防ぐ~陽 炎 Kagerou
03・膝 蹴を防ぐ~伏 兎 Fukuto
04・膝 蹴を防ぐ~釣鐘蹴 Turigane
05・廻 蹴を防ぐ~霧 消 Musyou
06・廻 蹴を防ぐ~飛 龍 Hiryuu
07・後 蹴を防ぐ~飛 鳥 Asuka

   第十三Chapter体当たりを“象る”

  ・体当たりをして来た瞬間        
01・肩で体当たり    (響 玉)Yuratama
02・体当たりA      (響 玉)Yuratama
03・組み付く      (瓢 投)Sikoronage
04・足を取りに来る   (瓢 掬)Sikorosukui
05・左右に揺らぎ体当たり(辰巳掬)Tatumisukui
06・体当たり      (辰巳巡)Tatumimeguri

   第十四Chapter短刀に対する“象り”

  ・心に残る象りの追求          
01・頸動脈へ斬り込む(入 違) Iritigai
02・短刀で腹部を刺す(大車輪)  Daisyarinn
03・短刀を左右に振る(水 葵) Mizuaoi
04・短刀を斬り下す (両羽伏) Ryohabuse

   第十五Chapter “やわら”の普遍性

  ・検証“引く”~”押す”
01・両肘衣を掴んで引く~響 投   Yuranage
02・両肘衣を掴んで引く~響 波   Yuranami
03・胸襟と肘衣を掴んで押す~太極投 Taikyokunage
04・胸襟と肘衣を掴んで引く~太極投 Taikyokunage
  ・“やわら”は万物の理が含まれる
  ・検証 大外刈
05・刈り倒を防ぐ象り~大外刈    Oosotogari
06・背負投を防ぐ象り~背負投    Seoinage


   第十六Chapter “歩 舞”

  ・“最強”などない!        
01・歩 舞             
02・紅葉返        Momijikaesi
03・引 立        Hikitate
04・銀杏返        Ityougaesi
05・山 嵐        Yamaarasi

       無象之象

   相対手Chapter(21世紀を紡ぐ)

  ・”円”         Rinngu
  ・相対手基本      Soutaisyu
01・北斗の譜一星     Hokutonofu1
02・北斗の譜二星     Hokutonofu2
03・北斗の譜三星     Hokutonofu3
04・北斗の譜四星     Hokutonofu4
05・北斗の譜五星     Hokutonofu5
06・北斗の譜六星     Hokutonofu6
07・北斗の譜七星     Hokutonofu7

      ・完整した…あとがき

 黒部峡谷のダムを造るには、長い年月をかけて、自然と一体にな
らないと完成はしなかったと聞く。
ひょっとしたら、象水手も人との優劣だけではなく、その奥はもっ
と厳しい自然との“象り”があるのかもしれない。
だから、大宇宙から寄せ来る宇宙の”気”を吸い、景色を”象る”エネ
ルギーとしなければならない。
これまで、完璧に象った景色は一つもないが、だから結果より内容
を重視すると、一つの景色を象るごとに改善していけるところが新
たに見つかる。それが、嬉しい。さらに、自分が上達することで、今までと違う景色を見ることができる。
その違う景色が見えるときは心が大きく揺れ、そして、新たらしい
景色が見えたときは、必ず自然と調和した象りが生まれる。
私は違う景色を見るために、終着するところがない、だから”千尋”
を描き続ける。
その描き続けるエネルギーは健康が極意である。
その健康法が手ぶら体操である。Teburataisou YouTube

 

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