第七Chapter歩六法

       歩 六 法

01・歩法の大事
02・二之歩
03・二之歩の悪い“プロセス”
04・二之歩の良い“プロセス”
05・二之歩巡
06・二之歩巡(大 返) Oogaesi
07・二之歩進
08・二之歩進(腕 返)  Kainagaesi
09・二之歩開
10・二之歩開(竹生捻  Tikubuhineri
11・内 歩 (浦 舟) Urafune YouTub
12・内 歩 (屏風返) Byoubugaesi YouTube

   ・歩法の大事
ここまで、いかに目に見えた(力)に抵抗せず、目に見えぬ(力)を
生み出すか、つまりは“玄”なるものを構成するさまざまな要素につい
て解説してきたが、結局のところ、これがなければ“象り”にならない
と言うものがある。「歩法」だ。
「歩法」は“いかに移動するか”を意味する。ほんの一歩位置が違うだ
けで崩されたり崩されなかったりする。ほんの一歩位置が違うだけで
相手を崩せたり崩せなかったりする。
最終的に法が成立するかしないかやられてしまうか防げるかは“一歩”
にかかっているのだ。
もちろん、“やわら”においては「歩法」も力まない。
大きく飛んだり強く踏みしめたり、と言ったステップは不要。
大きく飛んだりでいい。いいのだが、それだけに、この“一歩”は特別だ実際の戦いにはさまざまな型の歩みを用いざるを得ないが、当流では、究極的に最基本としている歩みが一つある。これさえ心得ておけば何とかなると言っても過言でないほどの一つだ。
 本編はそれを中心に論を進めたいと思う。

   ・二之歩
最基本としているのは「二之歩」と呼んでいるものだ(次の図参照)
この歩み二之歩で完結する。そして相手の打撃への対処として最基本
となる。まず、当流では自然立を基本としている。その状態からどのように足を運ぶかだ。
動き出しは右足から。右足を90度開きつつ左足の後踵へ運ぶ。すで
にこれだけで、最初の状態の中心線から体が完全に外れている続いて
左足踵を外へ90度。これだけだ。
これは“象る”から考えれば自然な歩みなのだが、日常習慣的にはおそ
らくかなりやりにくい動きだと思う。それは、背中側へ動いていくス
テップだから、大きく速く継続的に移動して行こう、とするならば、
どうしても前に行かねばならないだろう。
しかし、現実的には、突きをかわすにはほんの一歩でいい、と言うか
最小限のほんの一歩でなければならないのだ。そうでなければ相手を
制することはできない。“水”のように“象る”のだ。
ポイントは、いかに最小限の操作で相手の攻撃線から体を外すかだが
それをこの「二之歩」では、動きたい方向から遠い側の足から動き出
すことによって、最初の一歩で実現している。この歩みは、打撃対応
を最速で可能とするステップだと思う。
ただし、少々押さえておかねばならないポイントがある。
歩法は“足運び”だから、足を運ぶことだけに気をとられがちだ、そう
すると、得てして次の図のようにやってしまう。
まず右足を開きながら左足の後ろへ送るのだが、膝を曲げて足先から
着くように、要するに足先から動かそうと、体が残ってしまうのだ。
二歩目を継いでようやく体が動いたか、と言う感じでは、突きをよけ
るには間に合わない。
この運足の特徴は、何と言っても最初のたった一歩で、体を元の中心
線(自分にとっての攻撃目標)からはずしてしまうところにある。
右足を左足後ろに送り、着くや否や、左足踵を外へ開く。この時の最
初の一歩の着地はつま先からでなく、足裏全体一気に着けるように。
膝を曲げず、重心を移動する。この操作によって、最初の一歩で一気
に体移動ができるのだ。そして、二之歩とは言いつつも全体の動きを
ほぼ一拍子で行う。
この「歩法」は、稽古すればするほど速くなる。突き込まれる一瞬、
紙一重でかわす、と言う動きにどんどん余裕が生まれてくるのだ。

   ・“二之歩”の悪いプロセス

   (一図)     (二図)     (三図)     (四図)
    自然体   始めに足を運ぶ    反る       開き

(一図)自然体で立つ
(二図)体を揺らがないで左足を浮かし右足の後に左つま先を退く事
    で体が残るから駄目な姿。
(三図)(二図)から続き左つま先から右足の後に踵を下す
(四図)右足を横に開く。

   ・“二之歩”の良いプロセス

    (一図)      (二図)    (三図)     (四図)       自然体    重心を揺らぐ     捌く      開き                                                 
(一図)自然体で立つ
(ニ図)揺らぎながら重心の移動するその時少し左足を浮かす
(三図)早や右足の踵の後に左足を下し石火の如く右足を浮かす
(四図)自然体で右足を下す。

                                                   ・二之巡

「二之歩」は、その先の足を継げば、どんどん実践的に“法”化してい
く。次の図は、「二之歩」を2回繰り返したもので「二之巡」と呼ん
でいる。相手が左手を掴んだ瞬間、千尋振で、右足を退きつつ一つ目
の「二之歩」そこからさらに「二之歩」を継ぐと、相手を投げ崩せる
ようなポジション取りが完成している。
もちろんこれは、瞬時にほぼ一拍子で体を捌ける歩みがあってこそだ
投げの法は腕力で投げるものではない。適切なポジション取りができ
れば腕力など要らずに投げ放つことができる。
適切なポジション取りができずとも、卓越した腕力をもって強引に相
手を崩し投げる、と言う方法論もある。おそらくこちらの方が手っ取
り早い、と言うか、確実に思えるだろう。
筋力アップをはかればいいのだから。今行われている柔道は、そうゆ
う考え方の結果のような気がしてならないのだ。

   ・二之巡(大 返)Oogaesi YouTube                                                 

                                                 (一図)(受方)右足を進めて右手で捕方の左手首を取って引く、
(二図)(捕方)其の瞬間、外側からの千尋を描きながら右足を左足
        の後に退き
(三図)    左足を横に開きながら右手を受方の後首に当て

 

(四図)右足を左足の後に退きながら受方の右手を受方の後へ少
    し伸ばし
(五図)我が右手を受方の後に広げるように大きく廻し上げ
(六図)左足を踏みなおしながら受方を我が前下に投げる。

   ・二之進
「二之歩」に前に進む足を継ぐと「二之進」となる。これもまた別の
型の法となる。次の図が「二之進」の法例だ。
相手が左手を取った瞬間。千尋振で外側より回転し左手で挟みつつ「
二之歩」左手で相手の右手を蛇手で取りながら、左足を受けの右横に
進め、同時に相手の右手に(霞)を掛けながら、右脇下に差し込み右
足を進め同時に右手を相手の腰に当て、肘を返しながらお辞儀をする
ように前方へ倒す(枝垂桜)。
相手とぶつからないポジショニングを「二之歩」で実現しながら大き
く前に出て相手を後方へ崩す体移動を成立させている。その相手を後
方へ崩すときに(霞)をかけて崩している。

                                                     ・二之進  (腕 返)Kainakaesi  YouTube

                                                 (一図)(受方)右足を進めて右手で捕方の左手首を取って引く、
(二図)(捕方)其の瞬間、外側からの千尋を描きながら右足を左足
        の後に退き
(三図)    左足を受方の右側に進めながら左手を少し横に広げ

                                                 (四図)    右足を一歩進め右小手を受方の右手に当て伸ばしな
        がら霞を掛けて
(五図)    我が右手を受方の腰へ背手で当て
(六図)    肘を返しながら枝垂れて受方を倒す。

   ・二之開

二之足から横に開く動作を継いだものが、「二之開」である。
次の図参照相手が左手を取った瞬間。千尋で「二之歩」をしつつ相手
の右手をたたむようにしながら、左足を進める。そこから、左足と同
位に右足を進め、同時に相手の右肘を両腕ではさむようにとらえ、腰
を落としながら左足を開き、自分の正面、相手から見たら右斜め後方
に投げ落とす。
言葉で動作を説明するとけっこう手順が多い印象になるが、この全動
作はあっという間に完結する。
あたかも大東流や合気道の「四方投げ」のような格好になるが、これ
ほどアッと言う間に完結する「四方投げ」はあまりないのではないか
と思う。
いわゆる「四方投げ」は、相手が打ってきたり掴んできたりといった
ところから始まってそれに対する崩し、誘導のプロセスがあったりす
る関係で仕方がないのだが、これだけアッと言う間に相手を崩すポジ
ションを得ているゆえだと思う。

                                                     ・二之開(竹生捻)Tikubuhineri YouTube

                                                 (一図)(受方)右足を進めながら右手で捕方の左手を取って引く
(二図)(捕方)其の瞬間、千尋を描きながら左手を受方の右手の内
        側から掌を上に向けて丸く廻し上げ
(三図)    右足を左足の後に退きながら受方の右手を廻し下ろ
        して我が右側に送り

                                                 (四図)左足を受方の右横に進めながら右手で受方の右手を受方の右
    側へ廻し
(五図)右足を左足の内側に進めながら右手で受方の右手甲側から左
    手で逆に取り
(六図)右手を受方の右肘関節に添え受方の手首を圧しながら左足を
    横に開き腰を落として受方を我が前下に落とす。

   ・内 歩
この歩は「二之歩」の逆の捌きとなる。相手が左手を取った瞬間。
左手で千早振、右足を横に少し開きつつ相手の右手を、左手で丸く円
を描きながら自分の正面から右下方に下げ、左足を右足の前に踏み込
みながら右足を開く、同時に相手の右手を自分の前下に引く。
この動作は、宇宙の恒星が爆発するように感じるので太極投と言って
いる。
歩法で大事なことも、やはり“力まない”ことだと思う。頑張った足遣
いをすればたちまち居着くが、力まず、あたかも日常動作のような自
然な足遣いならば、止まらず流れるように動き続けることができる。
 そこが大切だ。これは“象る”ための歩みなのだから。

                                                     ・内 歩(浦 舟)Urafune YouTube

                                                 (一図)(受方)右足を進め右手で捕方の左手を取って引く、
(二図)(捕方)其の瞬間、内側からの千尋を描きながら廻し上げ
(三図)    受方の右手を我が左側に圧しながら

                                                 (四図)右足を少し横に開き
(五図)左足を右足の前に踏み込み同時に受方の右手を我が左足前に
    引き落としながら
(六図)右足を左足の横に開き受方を我が前下に落とす。

     ・屛風返 Byoubukaesi YouTube

 

(一図)(受方)右足を進めて右拳で捕方の顔面を突く、
    (捕方)其の瞬間、右足を受方の左右の足の間に踏み出し
        ながら頭を屈み受方の右拳を捌き
(二図)    左足を受方の右足の後に踏み開きながら左腕を受
        方の胸に当て同時に千尋を描く
(三図)    体を斜めに揺らしながら受方を倒す。

 

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