第四Chapter波 心

     波 心        

 

1・(力)でなく“共振”
2・二羽桁(崩し)(niunoketakuzusi)
3・二羽桁A(niunoketa)
4・二羽桁B(niunoketa)
5・二羽桁C(niunoketa)
6・二羽桁の展開(投げ)(niunoketanage )
7・八機手(hatikisyuu)
8・脊 椎(sekisui)( 背骨)

   ・(力)でなく“共振”

歴史の歯車は止まることなく回り続けている。
だからこの章では、古の中学生の遊び方を真似てみようと思う。
 “やわら”は(力)を用いて相手を無理矢理に投げようとはしない。
と言うことはこれまで述べてきた。
では、相手に対して何のアプローチもしないのかと言うと、そんな事
はない。前章で触れた“反作用”を利用すれば相手は自らの(力)で崩
れていくことになるが、それだけが“やわら”の手段ではない。
本章のテーマ“波心”は、相手に“共振現象”を起こさせて同調的に崩す
方法だ。
 物体は、それぞれの材質や形状で、決まった振動をしようとする。
このうち、一つを振れさせると、それと同じ長さの振り子だけが、何
も外力を与えないのに、自然に振れ始めるのだ。これが“共振現象”を
示す例としてよく知られている。
 振り子の「固有振動」は、糸の長さによってのみ決まる。重りが重
かろうが軽かろうが、強く押そうが、そっと押そうが関係ない。動か
せば必ず決まった周期(一定時間に何往復するか)で振れるのだその
同じ「固有振動」をもったもの同士が共鳴現象を起こすと、不思議な
思議なようだが、何も(力)を与えずとも動き出すのだ。
 この振り子の例では両振り子を繋ぐ棒を伝わって振動が伝わるが、
“空気”を通しても起こる。音叉を鳴らすと、近くにある同じ音の高さ
の音叉(同じ固有振動を持つ音叉)が勝手に鳴り出すと言う現象が起
こる。
 これは空気を媒質として起こっている“共振現象”だ。この媒質と言
う記号を“やわら”では“波心”と言う。
“伝えるもの”さえあれば“共振現象”は起こりえる。振り子や音叉を振
動させるのは、押したり叩いたりする(力)ばかりではない。
 例えばブランコに座っている人の背中を固有振動数と同じタイミン
グで押して揺らすと、揺れがだんだん大きくなって行く。
 その現象を「共振」と言う、人体も同じく固有振動があるから“波
心”と言う作用で相手が「共振」して崩れる姿を、景色と言う。
 それ等の景色を象ったプロセスを“やわら”では、“象り”と言う。

 

   ・二羽桁(崩し)(niunoketa )YouTube

“やわら”では勿論、体を通して振動を伝える。古の子供の遊びを稽古
法の一つとしてご紹介しょう。
下図は「二羽桁」と言う稽古法だ。まず、図のように互いに両手を出
し合い、自分が内、相手が外(あるいは逆)という型で合わせる内か
ら手を広げて互いの輪の中すべてを接触面として山彦(相手の反応を
誘起するアプローチ)を掛けると相手がそれに応じて反応する。その
応の中から“固有振動”を感じ取り、同じ振動で返すと“共振現象”起こ
り相手が崩れる。
振動と言っても、手をブルブルと振るわせて起こす類の物ではないの
で、感覚的につかんでいってほしい。     二羽桁A      

要するに、これが子供たちの崩し合う遊びのゲームだ。相手の“虚”で
はなく“実”のとこを象って崩すのだ。これは有事のときも共通するも
のだ。“内対外”と言う形で両腕を合わせ合って崩し合う練習法。筋力
で押し合うのではなく、相手に“反応”を起こさせる。(力)でなく
“波心”(固有振動)を伝える。

                                                 普通は、相手の“虚”のところを(力)で崩そうとしてしまう。そうす
ると、反作用によって自分自身を崩してしまうのだ。この崩れる理は
筋に他ならない。
“二羽桁”の第一段階ができるようになったら、虚実の取り合いに移行
していく。普通は互いの争点として一致した“実”の場所を攻め合う型
になる。これは単なる押し合い引き合いの戦いとなる。単純に押せば
スカされることによって崩されてしまう。
・Aこれに対する返し技が・Bだ。自分の肘のあたりにあった争点に加
へて、指先を相手の腕の内側に接触させる。そこから波心を送り込め
ば相手から反応を象れば、今度は相手が崩れる結果となる。ただし、
この・Bの返しにおいて、こちら側の指先に力みがあると、そこを逆用されてしまう。それが・Cだ。
相手が両手先をはずし両肘でこちらの両手先を圧して共振をかけてく
る。するとこちらは自らの(力)の反作用で崩れてしまう。
接点の巧みな操作による虚実の移行、と“共振現象”の兼ね合いによっ
て、どちらが崩されるかがコロコロと入れ替わる。自分の指先を相手
のうでの内側へ付けることによって新たな接点を設ける。
そこへの相手の反応により“実”化した新たな争点を“象る”ことによっ
て返す。

    二羽桁B         二羽桁C

                                                 
“B”の返しにおいてこちらの指先に力みがあると、相手が肘を絞るよ
うに“壁化"をはかり、こちらは自らの力みの反作用によって返されて
しまう。
普通の戦いでは“虚”は「隙」で“実”は「硬い備え」よって相手の“実”
を避けて“虚”を攻めようとする。しかし“やわら”に限っては逆なのだ。
それは“虚”を攻めることはない。
“実”を“象る”のだ。
なぜかと言うと、虚は実に変わる、実は鉄砲玉と同じくだんだん弱(
虚)くなり地に落ちて役に立たないからだ。
次の図はこの“二羽桁”から勢法を展開させた例だ。
先の例えで相手が両手先を外し、両肘で圧して共振をかけてきた瞬間
にこちらは手を移行させて相手の手首を取る。この時の取り方は八機
手「蛇手」と呼ぶ、つまむような手だ。(八機手参照決して力んで
握り込んでしまってはいけない。そこから左手を引くと同時に右手で
相手の左手を上方に圧する。それからそのまま動きを拡大させていっ
て、相手を横方向に投たり、崩したり、また、崩されたりとコロコロ
入れ替わる例を紹介したのは、それが武芸の真理でもあるからだ。
つまり絶対的に勝つもの、絶対的に強いもの、絶対的にかかる技法な
どは存在しない。
だから“変化性”が重要なのだ。その“変化性”こそ“やわら”の醍
醐味で。相手を感得すること、応じること、それを為すにはやはり
“水”の心である必要がある。波心で重要なのは、“相手の反応”だ触れ
て振動を与えれば、必ず何らかの反応が起こる。それを感得、あるい
はそのまま利用する、と言うことだ。
接点で力んでしまっては相手の反応は会得することができないし、振
動を送ることもできない。ここにおいても、力まないこと、力まない
身体であることは必須条件なのだ。
Q・ “二羽桁”で手が離れている訳は。
  本来は柔らかく触れているが、初心者は必ず手先に(力)を入れ
  るから、慣れるまでのことだ。
Q・ 相手が両手の外側から両手で両腕を圧して押す。
  二羽桁のA図その時は二羽桁のB図 のように手先を相手の内側に
  触れて、相手が実している両手を両腕で広げるように圧しながら
  体を前方に揺らして相手を崩す。この時手先は触れているだけで
  (力)は入れない。
Q・ 相手も崩されるのを嫌い両手を離す。
  本来は柔らかく緩めるのだが、二羽桁のC図ように分かりやすく示
  した。
Q・ 崩されないから、逆に崩したい。その時は、二羽桁のC図よう手
  先は離さず柔らかく手先は 触れておき、そのまま、仕掛けた相手
  の両手先を両腕の内側 で圧しながら前方に体を揺らすと仕掛けた
  相手が崩れる。

   ・“二羽桁” の展開(投げ)YouTube

                                                 (一図)前のプロセスでBが両手先を外し両肘でAの内側から両手先
    を圧してAを崩さんとする
(二図)其の時ABの両腕関節から両手を手首まで引きがら両手首
    を摘まみ

                                                 (三図) B の右手を左手で少し引き同時に右手で B の左手を少し押す
(四図) 其の侭 B の左手を上方に大きく押し揚げ
(五図) B の右手を下方に引きながら両膝を屈して B を投げ落とす

           ・八 機 手


      ・脊 椎sekisui( 背骨)

“玄”は核の中に住むから丹田ではなく腰椎に気を置くことが肝要。

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